
大滝宿 (おおたきしゅく) とは、 福島県福島市から山形県米沢市に至る万世街道沿いに実在する廃村である。万世街道もまた、国道13号線とほぼ平行に走るもすでに廃道。僕の高校時代の恩師、阿吽堂思瞑氏が今年1月、Holonic Platinumsのために書き下ろして下さった曲がこの大滝宿についての歌なのだ。現在レコーディング中のこの曲に是非、大滝宿の音を入れようと思い立ち、またそのついでにプロモーションビデオ用の映像を撮影しようと、去る6月23日、急遽故郷福島へと向かった。大滝宿は福島駅から車で30分程で到着するほど近く、入口にはこのように大きな看板が出ているのですぐにわかる。
このように今は陸橋の下にひそやかにたたずんでいる。大滝の名からわかるように、入り口には立派な滝があり、その水は湧き水でとても澄んでいる。ゆえに大滝宿を流れる川はとても清らかで、岩魚がよく釣れることから、春から夏にかけて釣り客が多く訪れる。
大滝は明治10年、福島と山形を結ぶ万世街道の建設基地として生まれた。明治14年万世街道が完成。明治天皇の行脚により通り初めが行われ、その後人馬の往来激しく、難所栗子峠を控えた重要な宿場町として、大滝宿と称されるようになった。この村を貫く道の中程に、明治天皇来訪記念碑が今でも残っている。
しかし明治32年、奥羽線開通により急激に客足は途絶え、たった20年あまりで大滝は宿場町として存続することが困難になる。以後、木炭作りを主な収入源としたのどかな山村として大正、昭和の時代をひっそりと生き抜いた。最盛期、昭和10年当時の人口は266人、43世帯。だがそれも第二次大戦後の高度経済成長による都市部との経済格差の増大、木炭の需要の低下という時代の激変には勝てなかった。出稼ぎや離郷者が相次ぎ、遂に昭和54年 (1979年) を最後に、開郷102年の大滝の歴史はその幕を閉じた。出身者による無念の想いを綴った記念碑が、中程の小高い丘にそびえている。以上の資料はこの記念碑からのもの。
大滝宿には現在住む人はなく、40数棟の家々は荒廃の限りを尽くし、ただ朽ちるのを待っているがごとくである。まるでタイムトンネルをくぐったように、時間が止まった村がそのままたたずんでいる様は圧倒的だ。
家の中に足を踏み入れると、当時の新聞、雑誌、生活用具などが散乱し、それらに蔦が絡んだり苔が生えたりしながら、人々が暮らしていた生々しさが今でも残っている。
祭りが近かったのだろうか、風雪に耐えながら提灯が今も飾ってあったのには驚いた。
足が折れながらかろうじて立って、村の様子を眺めている神社の大鳥居。
不動明王の絵の下に「入口」と書かれた建物があった。入ってみるとそこはなんと、地獄の様子を展示している村の見世物小屋だったのだ。板に彩色して作られたミニチュアの地獄絵図が、天井から漏れる太陽の淡い光によって浮かび上がる。その様は実に神々しく、畏怖に満ちていた。はっとすると奥には菩薩像と転がった人形達が、まっすぐ僕を見つめているではないか。おそらく、彼らは僕をここに招いてくれたのだ。この様子を広く伝えてくれと。僕はひとり、無心にビデオを回した。逃げまどう人間に襲いかかる鬼達。血の池地獄。針地獄。村の終焉と共にその役目を終えた「地獄」の使者達の姿はみな清らかだった。この様子は「大滝宿」のビデオクリップに挿入する予定。
「定。木戸料金、大人壱千五百圓也。小人壱千圓也。但し芝居萬世座、見世物末広亭双松座、天竺館見物料を含む。右之通り相定め候也。昭和六十年四月吉日。大滝宿」という看板。記念碑にある昭和54年より後もここで宿が開かれていたようだ。おそらく「天竺館」というのが上の見世物小屋のことであろう。1984年当時、まだ客相手に芝居や見世物が行われていたということか。
残念ながらこの看板はフェイク。実はこの「すずめのお宿」というお茶屋は現在も営業中なのだ!3年ほど前から春から夏にかけてのみ、釣り客相手にただ1軒、お店を開けているという。大滝宿にはもちろん毎日通っているらしい。炭焼きコーヒーとよもぎ餅をいただいたが、なかなか美味。そばもおいしいそうだがすでに売り切れていた。小さいながら2階建ての本格的な座敷で、テーブルにあった自由帳には老若男女の足跡が記されていた。それにしてもこのお店、携帯も圏外の所なのになぜか電話も電気も通じているのだ。電話番号は024-543-0810。住所は〒960-0261 福島市飯坂町中野大瀧15。
そしてこの犬はたぶん「すずめのお宿」の飼い犬。チンチンをしたりとても人なつこい。が、閉店後、無情にもこの場所に置き去りにされていた。
この水道から出続ける湧き水の音を収録。Holonic Platinumsの10分に及ぶ大作「大滝宿」の途中に挿入される。この曲はリュートで始まり、太田さんと僕が均等にヴォーカルを取る。ふたりのアカペラや2分間続く即興パートなど、プログレッシヴな構成となっている。この曲を収録した2ndアルバム "Holonic Platinums II" は、リトル・エルニーニョ・レコードより2001年11月発売予定。